膵臓がんナショナル・アドボカシー・デーとは(PC-NAD)
「すい臓がんナショナル・アドボカシー・デー」
■「PanCAN:パンキャン」とは
パンキャンジャパンは、米国の膵臓がん患者支援団体の日本支部として2006年に設立されました。本部は、1999年にアメリカのロスアンゼルスに設立された「膵臓がんアクションネットワーク(Pancreatic Cancer Action Network:PanCAN)」です。パンキャンは「がん研究促進」「患者家族支援」「希望を創る(アドボカシー活動)」の3つを使命として活動しています。現在は、膵臓がんの状況を良くするため「Demand Better」を目標に、包括的な活動を進めています。
■「膵臓がんナショナルアドボカシーデー」とは
米国パンキャン本部では、毎年、「膵臓がんナショナルアドボカシーデー」を設定し、ワシントンDCで膵臓がんの研究予算増額を訴える全米規模のロビー活動を行っています。
全米国立がん研究所(NCI)の予算は、この20年で2675億円から6152億円と増額されました。膵臓がんの分野は、パンキャン米国本部等のロビー活動により、膵臓がん研究予算は1999年の18.5億円から2017年の190億円へと増額されました。
■研究費が増額されることによってもたらされること
研究費の増額は、多くの患者の生存率を高め、そして予後を伸長し、将来的にも国際競争力を高めることができる大きなメリットのある事柄です。研究費増額により、米国膵臓がんの5年生存率は、2020年に倍増の10%となり、膵臓がん研究も加速しています。
米国では、現在進行中の抗がん剤の第Ⅲ相試験も、肺がんに比べて少ないものの、膵臓がんでも約140本が登録中であり、臓器横断型の医薬品承認(複数のがん種において特定の遺伝子変異が陽性の患者に対して承認されたもので、他がんでも効果が認められるものは使用できる米国の制度)により、膵臓がん患者も使える分子標的薬も3剤となっています(2019年9月現在)。
■適応外薬が使える「オフラベル制度」があるアメリカ
また、米国では適応外薬(注)でも同じ遺伝子変異が陽性の患者に対して研究として投与できるオフラベル制度(注)があり、がん遺伝子パネル検査を受けた患者で他の癌と同じ遺伝子変異が陽性の場合、適応外薬を使った治療を受けることができます。しかし、日本では適応外薬は原則使えないため、現在ゲノム医療に関連して、患者申出療養制度のなかで適応外薬を使うための準備が進められています。しかし、資金難のためにこの制度下で治療が受けられる患者数が極端に限定されているため、ゲノム医療として保険償還されたパネル検査の恩恵を受けるのはまだ難しい状況が続いています。
■米国と同じ状況にある「日本の膵臓がん」研究予算
日本では、平成30年がん全般に関する予算が、358億円。うちがん研究費は190億円(ジャパン・キャンサー・リサーチ・プロジェクト<AMED>)。上記のアメリカのがん予算と比較すると圧倒的に少ないことがわかります。
●平成30年度がん対策予算の概要 358億円 (cf. 平成29年度予算額 314億円)
1 がん予防 |
166億円 |
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新たなステージに入ったがん検診の総合支援事業 |
15.5億円 |
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がん対策推進企業等連携事業 |
0.8億円 |
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がん検診従事者研修事業(胃内視鏡検査研修) |
0.2億円 |
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*(上記のほか)たばこ対策、肝炎対策関係の経費 |
149億円 |
2 がん医療の充実 |
166億円 |
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新 |
がんゲノム情報管理センター経費 |
14.4億円 |
新 |
がんゲノム医療中核拠点病院機能強化事業 |
3.3億円 |
新 |
希少がん中央機関機能強化事業 |
0.8億円 |
新 |
希少がん診断のための病理医育成事業 |
0.8億円 |
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がん診療連携拠点病院機能強化事業 |
29.6億円 |
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小児がん拠点病院機能強化事業 |
3.2億円 |
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小児がん中央機関機能強化事業 |
0.6億円 |
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地域がん診療病院等機能強化事業 |
1.1億円 |
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がんのゲノム医療従事者研修事業 |
0.3億円 |
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がん登録推進事業(国立がん研究センター委託費) |
5.4億円 |
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都道府県健康対策推進事業(がん登録、相談支援関係等) |
6.3億円 |
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小児・AYA世代のがんの長期フォローアップ体制整備事業 |
0.2億円 |
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革新的がん医療実用化研究当(※構成科学課計上) |
88.7億円 |
3 がんとの共生 |
25億円 |
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新 |
がん患者の仕事と治療の両立支援モデル事業 |
0.3億円 |
新 |
がん総合相談に携わる者の対する研修事業 |
0.2億円 |
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緩和ケア推進事業(がん診療拠点病院機能強化事業) |
2.3億円 |
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都道府県県境対策推進事業(緩和ケア関係) |
0.1億円 |
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がん等における新たな緩和ケア研修等事業 |
0.7億円 |
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がん患者の就労に関する総合支援事業 |
1.5億円 |
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がん患者の療養生活の最終段階における実態把握事業 |
0.3億円 |
出典:厚生労働省
今、この研究費の枯渇により、日本で生まれている優れた研究シーズ(科学技術研究の種(Seeds):将来商品化等で花開き実を結ぶ可能性の高い研究のこと)が埋もれたままになったり、がん研究が進めたくとも進められない状況や、ジャパンパッシング(国際治験や臨床試験等に日本が参加できない状態で進むこと、日本の患者が欧米で開発された新薬が使えないドラッグラグ問題が生まれる原因となっている)(注)が進む状況などになったりし、国際競争力も含め、大きな損失をもたらしています。
がん予算を増額し、膵臓がんへの研究投資を進めるため、国民からの働きかけが必要です。
■日本でスタートする「膵臓がんナショナルアドボカシーデー」
日本でも膵臓がん医療の環境を向上させるため、2020年よりスタートする「膵臓がんナショナルアドボカシーデー」では、膵臓がん研究を力づけ、膵臓がんの予後を前進させるためのアクションとして、多くの試みを行います。膵臓がんのステークホルダーの皆さまや関心をお持ちの方、また膵臓がんへ支援をしたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひサポートをお願いいたします。
■私たちにできることー膵臓がん研究・医療体制への支援
●研究費の促進を進めるために
①署名活動
②研究者への支援
③「膵臓がんガイドライン」制作への支援
「私たちにできること」として、膵臓がんへの支援体制を近日中にスタートします。
膵臓がんの医療環境を力強く前に押し出すために、多くの方のご参加をどうぞお願い申し上げます。
◆関連資料ー公開されている資料
●日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG) ホームページ
「未承認薬・適応外薬を使った臨床試験について」
http://www.jcog.jp/general/clinicaltrial/unapproved.html
◆用語の解説
●適応外薬:
海外でも承認・販売され、日本国内でも他の疾患で承認されている薬でも、日本では疾患が異なり通常の保険診療の中では使用できない薬剤のこと。副作用 :医薬品等で、その効果や作用に伴って起こる別の望ましくない作用。
●オフラベル制度(Off-label use):
適応外薬使用。日本では、(一部の例外を除き)適応外使用は保険適用されない。米国では適応外使用でも一定のエビデンスがあれば. 公的保険の償還対象となっており、同じ疾患でも米国では使用できても、日本では使用できない状況がある。
●ジャパンパッシング(Japan Passing):
欧米の政府や企業などからの日本市場に対する関心が低いこと。 アジア経済に占める日本の存在感が1990年代ごろから低下し、外交や投資などの相手として中国など、他のアジア諸国を重視するようになったこと。その結果、現在では、東アジア(中国、韓国、台湾、日本)において、臨床試験の数で日本は最下位になっている。